はじめに
「投資、始めましたよ。新NISAでオルカン買ってます」
ここ数年、こういう会話が本当に増えました。SNSでも、職場でも、家族の食卓でも。投資はもう「一部の詳しい人だけがやるもの」ではなく、日本人の当たり前の選択肢になりつつあります。
でも、ふと気になったんです。
「みんなNISAは始めたのに、iDeCo(イデコ)の話って全然聞かないな」と。
調べてみると、これは感覚ではなく、データで明確に裏付けられる事実でした。今日はその話を、最新の公式データをもとに掘り下げてみます。
本記事の前提
本記事は2026年5月時点の制度・データに基づきます。iDeCoは原則60歳まで引き出せない長期積立の制度です(加入期間が10年未満の場合は受給開始年齢が後ろ倒しになります)。投資・拠出の判断はご自身の状況に応じて行ってください。
衝撃のデータ:NISAとiDeCoには約7倍の差がある
まずは数字を見てみましょう。
- NISA口座数:約2,427万口座(2024年6月末・金融庁)
- iDeCo加入者数:約354万人(2024年12月末・国民年金基金連合会)
単純比較はできないものの、規模感としては約7倍の差があります。
割合で見ると、354 ÷ 2,427 ≒ 14.6%。つまり、NISA口座を持っている人のうち、iDeCoまでやっている人は約15%しかいません。
裏を返せば、約85%の人がiDeCoという選択肢を活用できていないということです。
さらに、野村総合研究所(NRI)の調査では、
- 20〜40代のNISA普及率 11〜17%
- 20〜40代のiDeCo普及率 1〜4%
同じ「非課税制度」「税制優遇制度」と言われながら、ここまで利用率に差があるのです。
つまり日本では、「投資は始めたけど、節税までは活用できていない人」が圧倒的多数ということです。
面白いデータもあります。オカネコの調査(2024年11月)によると、iDeCo加入者の90.6%はNISAも併用しており、NISA積立額の平均はiDeCo拠出額の約2.7倍。「両方やっている人」ですらNISA偏重で、iDeCoを本格的に活用している人は少数派なのです。
では、なぜここまで差がついたのでしょうか。
なぜみんなiDeCoをやらないのか:3つの障壁
① 60歳まで引き出せない(最大の心理的障壁)
これはかなり大きいです。
NISAは必要になればいつでも売却して現金化できます。一方、iDeCoは原則60歳まで引き出せません(加入期間が10年未満の場合は受給開始年齢がさらに後ろ倒しになります)。
20代・30代は、結婚、住宅購入、子どもの教育費、転職、独立、親の介護など、大きなお金が必要になるイベントが多い時期です。
そんな中で「60歳まで使えない口座にお金を入れる」(加入期間によってはさらに長期間引き出せない)というのは、かなり勇気がいります。
実際、NRIも「60歳まで引き出しができないことが、若年層にとって加入への高いハードルになっている」と指摘しています。これは単なる知識不足ではなく、合理的な不安でもあります。
② 制度が複雑でわかりにくい
NISAはシンプルです。「年間360万円まで非課税で投資できる」。基本的にはこれだけです。
一方、iDeCoは職業によって上限額が変わります(2024年12月改正後の最新版)。
- 自営業 月68,000円
- 会社員(企業年金なし) 月23,000円
- 会社員(企業型DCあり) 月20,000円(55,000円−事業主掛金の枠内)
- 会社員(DBあり) 月20,000円
- 公務員 月20,000円
- 専業主婦(主夫) 月23,000円
さらに制度改正も頻繁にあります。2024年12月にも大きな改正があり(DB加入者・公務員の上限が12,000円→20,000円に引き上げ)、2027年にも改正予定があります。
正直、「調べるだけで疲れる」と感じる人が多いのも無理はありません。実際、調査では「制度についてよくわからないから始めていない」という人が約4人に1人もいます。
③ 手数料がかかる
iDeCoには口座管理手数料があります。金融機関によって差はありますが、年間2,000〜7,000円程度かかるケースが一般的です。
NISAは「口座管理手数料無料」が当たり前なので、この点も比較されやすいです。
iDeCoの3つの税制優遇
iDeCoの税制優遇は実は3段階あります。
- 掛金が全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)
- 運用益が非課税
- 受取時にも税制優遇(一時金は退職所得控除、年金は公的年金等控除)
NISAは「運用益が非課税」のみ。iDeCoは入口・運用中・出口の3段階で税制優遇があります。
特に重要なのは入口の所得控除。NISAにはない強みです。投資しながら、今払う税金そのものを減らせるのがiDeCoです。
シミュレーション:年収500万円の会社員の場合
例えば、年収500万円の会社員がiDeCoを利用した場合。
- 月額拠出 23,000円
- 年間拠出 276,000円
- 所得税率 10%
- 住民税率 10%
この条件だと、年間の節税額は約55,200円になります。
276,000円 × (0.1 + 0.1) = 55,200円
しかも、これは「投資の利益」ではありません。制度を使うだけで、毎年税金が減る金額です。
これが30年続けば、節税効果だけで約165万円。
55,200円 × 30年 = 1,656,000円
投資で毎年5万円を安定して稼ぐのは簡単ではありません。でもiDeCoなら、制度を利用するだけで、毎年数万円のリターンが「ほぼ確定」するのが大きな強みです。
見方を変えれば、「60歳まで引き出せない」というデメリットは、「老後資金を強制的に守ってくれる仕組み」とも言えます。特に、気づくとお金を使ってしまう人や、貯蓄が苦手な人には、むしろ相性が良いケースもあります。
ただし、iDeCoをやらない方がいい人もいる
ここはかなり大事です。iDeCoは強力な制度ですが、全員に最適とは限りません。
専業主婦(主夫)など、所得税・住民税を払っていない人
iDeCo最大のメリットは「所得控除」です。そもそも税金を払っていない場合、その恩恵を受けられません。
口座管理手数料は加入者全員に発生するため、節税ゼロだと確実に手数料分マイナスになります。配偶者の扶養内で働いている人は、iDeCoより配偶者のNISA口座を充実させる方が合理的です。
60歳までに大きな出費が確実にある人
住宅購入や教育費などで資金が必要になる可能性が高い人は、流動性の低さが大きなデメリットになります。
NISAをまだ十分活用できていない人
まずは、いつでも引き出せるNISAを優先するのがおすすめです。投資に慣れる意味でも、最初はNISAの方が扱いやすい制度です。
生活防衛資金がない人
特に自営業やフリーランスの方は、急な収入減・病気・仕事減少に備えた現金が先です。iDeCoは余裕資金でやる制度です。
結論:NISAだけでは、もったいないかもしれない
NISAは本当に素晴らしい制度です。これだけ普及したのは、日本の資産形成にとってかなり大きな前進だと思います。
ただ、NISAは「将来増えた利益が非課税になる制度」です。一方iDeCoは、「今払う税金を減らしながら、将来にも備える制度」でもあります。
働いて所得税・住民税を払っている現役世代にとって、iDeCoの「所得控除」はNISAでは得られない強みです。
もし、「NISAは始めた。でもiDeCoはまだ」という状態なら、毎年数万円〜十数万円の節税機会を逃しているかもしれません。
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参考情報源
※ 本記事は2026年5月時点の制度・データに基づきます。最新情報は公式情報をご確認ください。

